素朴で不気味な囲われた世界

前回の『君と僕の壊れた世界』で
西尾維新は探偵小説における操り問題について、

『操られる奴が馬鹿だ』と言ってた気がするけれど、
今回はまさにそういう馬鹿な人たちの話。

だから、この囲われた世界では、
事件は真の解決をみせずに、
壊れた世界で操り問題を一蹴した
名探偵がご登場なさるのでしょう。


・・・・・・
相変わらず、西尾さんの小説は
底が抜けている感じがして、いいですね。

読書

『メタミステリー』『クローズドサークル』『バトルロワイヤル』の三題噺。

あらすじとしては、
アルバイト情報誌に載っている超高自給のバイトを
することになった主人公たち(十二人)が『暗鬼館』という館で
その『主人』にバトルロワイヤルさせられるよう仕向けられるという話。

ところどころに散りばめられた
ミステリーのガジェットがそれを解く謎になっているというのと、
館の『主人』という存在を『ミステリー小説家』そのものとして
書いているところが非常に面白い造りだなと思いました。


ストーリー部分では
相変わらず、ところどころ苦々しいお味ですね。
ただ、オチはあまり好きじゃないというか、
僕が須和名さんがいつ活躍するのかと待ち望んでいただけなのかもしけません。


表紙が西島大介なんだけど、
なんかいつもと等身が違っていて妙に見える。

読書

・スタンドドット
ボーリング場閉鎖のその当日の店長の話。

最後の客としてたまたま来た男女が
最後にその店長に投げるように勧める。
その一投を投げる瞬間
彼は尊敬していた『ハイオク』さんの
倒すピンの音を思い出す。

『学生時代から変わらない、彼のスタンドドットだ。
しかし本当にこの立ち居地でよかったのだろうか』

イラクサの庭
 一人の『先生』の死と、その先生が抱えていたもの。
『先生』が最後に残した一言を巡って・・・。

アルバイト

 普段は書店員のバイトをしていますが、
 一昨日と一昨昨日は、看板持ちのアルバイトをしました。
 モデルルームの案内のプラカードを持って
 交差点にたっているバイトです。

 結構楽ですが退屈でもあります。
 八時間ずっと立ちっぱなしなのですから。
 ただ携帯できる椅子をも持っていけばかなり楽なるし
 本も読めるし、音楽も聞けるので
 自給はあまりよくないけど、いいバイトだと思います。

 ただ労働として考えると
 誰の為にやっている分からなくなります。
 be動詞的なたたずまいを要求されるのです。
 まあまたやりますが。

批評

注、僕は『受験の神様』は先週と今週しか見てないから
まともに批評する気もさらさらないし、遊びで書いてます。
(だからドラマの前提も全然分かってない)


主人公の男の子は
中学受験をするのだけれど
どうやら国語の成績が悪いらしい。
(登場人物が考えていることが分からない
⇒そしてそれは本を読むことで鍛えられるみたいだ
また登場人物の考えていることが分からないと
どうやら思いやりがないというレッテルが貼られるらしい
 一方でクラスにはテレビゲームをやって『死ね』『殺す』
 などを平気で使うバカっぽく描かれている子供たちがいる、
 この光景が非常に面白い)


そこで、主人公のじーさんが死んだ。
僕は呆れざる得ない。
本当にこれはひどい話だ、と思った。


つまり、きっと、
じーさんの死を通して
人の気持ちが分かるようになったりしてしまうのだ。
成長したりしてしまうのだ。


そんなのってあるか。
それじゃあ、じーさんがあまりにも報われない、


これが開始三十分ぐらいの感想。


・・・・
ここからが批評。


ここで現れているは大事なポイントは二つである。
主人公の少年の国語の成績というものの重要性と
(このドラマでは国語の成績のよさは、
 思いやりという人間性とくっついているらしい)
犠牲になった祖父(校長先生だったらしい)の命の軽さである。
(この二つの重さが前者は重くなり、後者は軽くなっている)


今の子供にとっての受験というのは
例えば一人っ子が多い現代では確かに大問題である。
そういう意味でその重要性が増したというは
理解しやすいだろう。


一方でその祖父の命は簡単に奪われてしまう。
(なんで死んだのか、危篤状態とかだったのかは覚えてない)
そしてその死を通して主人公の男の子は『成長』する
のだけど、


それは、ここでいう『思いやり』の発見の言う形で
つまり、国語の成績の為だ言うことができよう。
しかも、祖父は教師であった。
彼はその命を絶つことまでして、
主人公の国語の成績を上げたのだ。


例えば、僕がこのドラマの作り手に
悪趣味に質問する。
『なんで祖父を殺したんですか?』
作り手は答える。
『主人公の国語の成績を上げるためだ』
僕が相槌代わりに皮肉をこめて言う。
『なんて文学的なんでしょうか。
かつて『太陽が眩しい』という理由での殺人は
ありましたが、
まさかあなたは主人公の成績を上げるために祖父をころしたというんですか?』
作り手は、当然のように、
『まったく、そのとおり』 と答える。
エクセレント、よくできました、だ。


という、やりとりを想像させるほど、ひどいのだ。
(もし仮にこれが意識的なら文学的だと僕は思うが
意識してないばっかりにこの文章批評になってしまい
作り手は散々バカにされているのだ)


作り手は、教室という一つの空間に
塾に行っていて国語ができるグループと
(小説とか読んでて、思いやりがもてる)
ゲームをしていて、命を軽く見てしまうような
発言をする子供たちを同居させるが、
(彼らは一人がやってるゲームを一緒に見ながら
『死ね』とか『殺す』とか言って、教師に怒られる)


まさに作り手こそ、人の命を道具として見立て
主人公の成長の道具として扱っているのをみると、
僕はあんたこそ『死ね』とか『殺す』とかいうガキの
グループだろうと言いたくなる。

感想


色々なレベルから解釈可能なので、
やはり語るのはとても難しい作品ですね。
批評家が書いた小説というのはそういう意味で本当に難しい。


ので、とりあえず
私的に良かったところ文を引用。


・・・・・・

『(そのときにはきっと)
 浅田彰大塚英志阿部和重新海誠鈴木健介も
 ぼくの愛するひとたちが、そしてぼくから離れたひとたちが、
 すべて戻ってくるだろう』

こんなリップサービスしてていいのでしょうか、
と思いながらも、楽しめました。


『後付けの理論でなんでも逃げようとする
 お前のそんなところが気にくわないんだ』

東浩紀が自虐的に他者に言わせている一言。
批評/評論というのは『現実』というものがあって
初めて機能するもので、
それは確かに後だしっぽいかもしれない。


『標的となるのは戦後の日本を生きてきた
ぼくらひとりひとりが構成する良識という強固なレンガなのだ』

この小説が目指しているものの大きさを示す言葉。
達成されうるかどうかは、
ひとえに、読者がどれぐらいこの小説のあの『光景』を
言葉にして広められるかにかかっています。


『キミが終わらせるのは何だろう。
 セカイ系2ちゃんねるの時代か』

(セカイ系が『新潮』で通じるのかな?)
ゼロ年代の想像力』という言葉もでてくるし、
そういうものも意識している小説なんでしょうね。



・・・・・・
膨大な固有名詞が出てくる本作ですが、
(那須きのこから三島由紀夫まで、
さらに前島賢太田克史などホントに幅広い)
最後に残るのは
(勿論、阿部、舞城、三島、佐藤、筒井も大事だけど)、
新井素子押井守桜庭一樹桜坂洋、で拓けるの解釈系。
それが実に印象的なのだ。

『小説とは(中略)『キャラクター』という
曖昧な存在の幸せの為にかかれるのだということ、
そしてそれこそが、
文学人間に自由と寛容をもたらすと言われていることの根拠なのだ、
というその基本原理を、この作品の解釈において永遠に訴え続けてほしいのだ。
それがぼくの遺言だ。』


本当はもっと他の部分に
(小説全体の構造や批評の部分など)に言及しなきゃいけないけど、
とりあえず、今日は印象ということで、ここまで。

感想

小説っていうのは
一枚の絵を書く作業ととても似ている。
一枚の絵には凝縮された物語がある。
小説は物語を一枚の絵に凝縮し、収斂するのだ。
(勿論、こういう小説は極く一部だけど)


今回の文学少女は、
僕に二枚の絵を見せてくれた。
一枚は屋上でのシーン、
もう一枚は最後のプラネタリウムのシーン。
どちらも、とても綺麗な絵でした。


・・・
少し作品の中身について言うならば、
漸く、というか、今回の話の為に
これまでの物語を書いてきたのでしょうね。

『真実』についての物語です。

真実だとか本当のもの、というのは
普通には存在しない。あるいは何かの否定によってしか現れない。
そういうものだと僕は考えている。

今回の話で言えば、
朝倉美雨の
真実の姿を見ることができなかった
あるいはそれを捏造していることに
気づかなかった井上心葉の悲劇と、

誰にでも『仮面』を被ってしか接することができない
(本当の感情で付き合うことができないと思っている)
竹田さんの悲劇が合わさってできた、物語だといえる。

物哀しいし、
どこかやりきれない気持ちもあるけど
彼らの世界は終に平和を得たのだろう。

というのは、
井上心葉と琴吹ななせ
芥川一詩と朝倉美雨
櫻井流人と竹田千愛
という風に、物語のキャラクターは全て
一組ずつのペアに収斂されたからである。


残っているのは天野遼子だけだが、
彼女は存在しないらしいので、
その辺をうまく書いて物語は終わるのでしょう。
事実上の最終回は今回だということで、
次のハードルは高いですが、期待してます。

・・・
本当は作品に出てくる
文学少女』と『名探偵』の違いについて
書こうと思ったのだけれど、それはまた別の機会に。